〈向上・上〉『ALL OUT』の先に見える甲子園。109名の一体感を武器に新たな歴史を創る
今春の県大会でベスト4に入り、10年ぶりに夏の第一シードを獲得した向上。平田隆康監督に今年の特徴を聞くと、「例年以上に“密”ですね。チームのまとまり、一体感が強い」とうれしそうに教えてくれた。悲願の甲子園へ。部員109名のチーム力で勝負する。
(文/大利 実 写真/大利 実、BK編集部)
スーパーポジティブな主将・北野の存在
チームを引っ張るのは、キャプテンを務める外野手の北野龍彦だ。
「今年は北野の存在が本当に大きい。北野が目標を高く掲げていて、そこに周りが引っ張られています」と、平田監督はそのリーダー性を高く評価する。
川崎市立塚越中出身。自校で練習試合があるときは、5時前の電車で通学している。
「今まで甲子園に行ったことがない学校だからこそ、新しい歴史を創りたい。向上に惹かれた一番の理由です」
歴史を切り拓くために、キャプテンとして心がけているのはどんなことか。
「チーム力や一体感を大事にしてきました。そのためには、キャプテンである自分が『甲子園出場』という大きな目標を掲げ続けること。ぼくがマイナスな発言をすると、チームの士気が下がるので、ミーティングでも『甲子園に行こう』『歴史を変えよう』という話を常にしています」
仲間から見た北野は、「スーパーポジティブな性格」。ネガティブな言動は見せないという。
サードの松根葉流が「秋にケガをしていて気持ちが落ち込んでいたときに、北野が『頑張ろう!』とずっと声をかけてくれて、前向きな気持ちになれました」と言えば、正捕手の富澤創平は「新チームのときから、『甲子園!』とずっと言っていたのが北野。言霊じゃないですけど、目標を言葉にして、周りの人に聞いてもらうことで、自覚も芽生える。北野のおかげでチームが明るく、ここまで戦うことができています」と感謝を口にする。
選手とともに戦う女子マネージャー
キャプテンの北野とともに、一体感を生み出しているのが女子マネージャーだ。平田監督は、「チームのことを本気で考えてくれている」と信頼を寄せる。
2021年に女子マネージャーを初めて募集し、これまでは面接等を経て、ふたり以内に絞っていたが、今の3年生は熱意と意識が高かったこともあり、過去最多の4人。
清水花美は兄が東海大相模、柳澤若葉はふたりの兄が日大藤沢、大淵杏奈は兄が立花学園、そして荏原あおいは父が向上の野球部出身と、身近に野球がある環境で育ってきた。
「一生懸命にやる、本気で目指す、とはどういうことかを野球部で学びました。何事も手を抜かずに取り組むことを大切にしていて、プレーしやすい環境を作ることが、マネージャーの役割だと思っています」(清水)
「マネージャーは、チームにとっては黒子の存在。選手が輝けるように、目立たないところで全力を注ぐことを心がけています」(柳澤)
「私たちの挨拶や気配りひとつで、グラウンドに来ていただいた方に喜んでもらうことができる。飲み物を出すことひとつとっても、丁寧にすることを心がけています」(大淵)
「私たちの挨拶やおもてなしによって、間接的に向上高校を応援してくださるファンがひとりでも増えることにつながれば、とても嬉しいです」(荏原)
公式戦は1試合ずつ、記録員として交代でベンチに入る。7試合、勝利のスコアを記すことができたとき、甲子園に辿り着ける。
「この代で甲子園に出て、日本一の景色を全員で見て、伊勢原に帰ってきたいです!」(荏原)
最後の夏、選手とともに、熱い気持ちで戦い抜く。