〈向上・下〉『ALL OUT』の先に見える甲子園。109名の一体感を武器に新たな歴史を創る
今春の県大会でベスト4に入り、10年ぶりに夏の第一シードを獲得した向上。平田隆康監督に今年の特徴を聞くと、「例年以上に“密”ですね。チームのまとまり、一体感が強い」と嬉しそうに教えてくれた。悲願の甲子園へ。部員109名のチーム力で勝負する。
(文/大利 実 写真/大利 実、BK編集部)
夏は「投手陣で勝つ試合」をつくる
昨秋は3回戦で横浜に、今春は準決勝で武相に、ともに5対6で敗れた。夏も際どい勝負が予想される。
「ピッチャーがどれだけ踏ん張れるか。春に頑張ってくれた大森(逢沙斗)、百瀬(匠)に加えて、秋に投げていた桧原(佳威)がケガから復帰したのが大きい。それぞれが持ち味を出してくれることを期待しています」(平田監督)
同じ右腕だが、持ち味は違う。百瀬は最速143km/hのストレートを軸に、気持ちで押していくスタイルだ。
「1年生の頃からずっと一緒にやってきたので、大森や桧原のことは意識しています。例年に比べて、今年は試合で投げられる枚数が多いのが武器。秋春ともに『ピッチャーで負けた』と思っているので、夏こそ『ピッチャーで勝った』と言われるような試合をつくっていきたいと思っています」
大森は、ストレートと同じ軌道から落ちるタテのスライダーに特徴がある。
「春は百瀬に頼り切りだったので、夏は百瀬を出さずに勝てる試合を増やしたい。背番号に関係なく、投手陣で一番長いイニングを投げていきたいです」
桧原は昨秋まで主戦格で投げていたが、打球がアゴに直撃するアクシデントに襲われ、3月まで激しい運動が禁止されていた。
「春の大会で投げているふたりがすごく羨ましかった。自分の武器は、ストレートと横に曲がるスライダーのコンビネーション。夏は流れを変えるようなピッチングをします」
春の大会後、投手陣での会話を増やし、思考力を磨いているという。それぞれの役割を全うし、甲子園までの7試合を戦い抜く。
手が届く場所に見えている甲子園
攻撃面は、秋は走塁、春はバントと、明確なテーマを持って戦ってきた。平田監督曰く、「スタメンのうち7人ぐらいは走れる」と、夏は積極的な仕掛けが予想される。
3年生で中軸を打つのが、シュアな打撃が光る石井敦也と、パンチ力が売りの松根だ。
石井はここまでの戦いを経て、「見えない場所にあった甲子園が、手の届く位置にあると思えるようになった」と語る。
「全員が甲子園に行けると思って練習をしている。その気持ちが一番大事だと思います」
松根は打の中心だが、「打撃は水物なので、大事にしているのは守備。球際の守備力は、春の大会でワンランクアップしたかなと思っています」と自信を深める。打たせて取るタイプの投手陣だけに、サード・松根の守備力は大きなポイントになる。
そして、守備面で扇の要を任されているのが富澤創平だ。
「視野の広さや試合の流れを掴むことは、自信を持っているところです。ピッチャーひとりひとりの武器を生かして、バッターを攻めていきたいです」
2020年6月に完成した専用球場のセンターバックスクリーンには、『ALL OUT』の横断幕が掲げられている。平田監督が15年以上前から、大切にしてきた言葉だ。
「相手よりも、自分たちの力をすべて出し切ることが一番大事なこと。今年のチームは、自分たちで判断して動けることが多く、あえて任せる部分を増やしています。だから、私自身も非常に楽しみで、期待しています」
グラウンドとスタンドでともに戦う選手、黒子に徹するマネージャー、そして指導陣が一体となって、歴史を変える夏に挑む。