〈横浜隼人・下〉注目のバッテリーを中心とした「綱引き野球」で頂点へと駆け上がる
激戦区神奈川で存在感を示し続けている横浜隼人。春の悔しさにベンチ外メンバーのエネルギーも加えた「綱引き野球」で、今夏ノーシードからの下剋上での頂点を目指す。
(文・写真/猶木充和)
四半世紀の歴史を持つファイナルマッチを経て
そして3年生たちが最後の夏を迎える前に、横浜隼人には“欠かせない試合”がある。夏のベンチ入りメンバー20人に入れなかった選手たちの引退試合となる『スペシャルファイナルマッチ』だ。同じくベンチ外メンバーでチームを組んだ横浜商科大高を相手に、25年も前から行われている伝統の定期戦であり、今年は3年生の人数が多かったために特別に6月24日(横浜商大高校)と27日(平塚学園高校)に2試合、横浜スタジアムと平塚球場を舞台に実施した。
水谷監督は言う。「勝った、負けたというのは一瞬のこと。でも、それよりも今まで積み重ねてきたこと、高校3年間でどれだけ成長できたか。最後の大会で全員がベンチ入りすることはできないですが、それでも自分がやってきたことは間違っていないですし、必ず、将来に繋がる。そう思って欲しい。そのためのファイナルマッチ。この試合を終えると、チームは最後の夏に向けてグッと一体感が増す」。選手たちの保護者たちもスタンドから見守る中で行われる“真剣勝負”。今年も最後は夜空に帽子を高々と放り投げ、涙と感動に包まれた。
そして、この『ファイナルマッチ』が、夏のベンチ入りメンバーの心にも火をつける。「今まで自分たちが普通に練習できていたのも、みんなの支えがあったからこそ。次は自分が、という気持ちになりました」と山野井主将。さらに岩城が「チームの絆がさらに深まった」と言えば、小笠原も「今まで支えてくれた仲間たちの最後のプレーを見て、自分たちも頑張らなければいけないと気合が入りました」と拳を握る。夏の準備は整った。
チームスローガンは「一心開花」
夏はノーシードからの戦いになるが、「その分、失うものはない」と山野井は語る。そして「自分たちは挑戦者なので、1戦1戦を全力で戦って勝ち上がって行きたい」と続ける。エースの沼井も「失うものはないということで気持ち的に有利に試合に入れる。投手陣全体で優勝までの8試合を戦い抜きたい。失うものはないですし、恐れるものもない」と気合十分。岩城は「8試合を勝ち抜くためには全員の力が必要になってくる。全員が束になって、チーム全員が1つになって勝ち上がって行きたい」と語る。
水谷監督は、秋、春の神奈川の上位進出校を見て、「どこが勝ってもおかしくない。とにかく勢い掴んだチーム、勢いを早く自分たちのものにして突っ走ったチームが頂点に上り詰めていくんじゃないかな」と言う。もちろん、その候補の中に、横浜隼人も入る。今年のチームスローガンは『一心開花』で、山野井は「部員全員の気持ちを一つにして甲子園で花を咲かせる」と説明する。重ねてきた練習で土は耕され、夏到来で太陽の光は十分にある。あとはベンチ外となった仲間たちの想いも背負ったか選手たちが、1試合、1イニング、1球ごとに自分たち、そしてチーム全体に肥料を与え、大輪の花を咲かせるつもりだ。