〈武相・上〉強打でつかんだ42年ぶりの春の頂点。「雑草の逆襲」で狙う56年ぶりの聖地
この春の「主役」と言っていいだろう。新基準バットで長打を連発し、3回戦から決勝まですべて5得点以上。鍛え抜かれたフィジカルと技術で優勝を遂げ、古豪復活を印象づけた。チームの視線は夏の甲子園に向かっている。
(文/大利 実 写真/大利 実、BK編集部)
「9イニング勝負」を実践できた春
42年ぶりに春の神奈川を制した武相。
決勝後、一塁側応援席への挨拶を終えた選手から、「やばい。神奈川制覇しちゃった」という本音が聞こえてきた。
春の目標はベスト8。一戦ごとに力をつけ、一気に頂点まで駆け上がった。
4回戦の横浜商から、決勝の東海大相模まで2点差以内の接戦。4回戦と準々決勝は、3点ビハインドからの逆転勝ちだった。
「9イニング勝負」
2020年の夏から指揮を執るOBの豊田圭史監督が、口酸っぱく伝えていることだ。前任の富士大で8度の全国大会出場の実績を持ち、1968年夏以来甲子園から遠ざかる母校の再建を託され、神奈川に戻ってきた。
「最後に1点勝っていればいい。大事なのは一喜一憂しないこと。ミスが起きても、チャンスを潰しても、それを引きずらなければいい」
素早い攻守交替
自チームの攻撃が3アウトチェンジになったあと、守備に向かうスピードが非常に速い。「うちが一番じゃないですか」と指揮官も自信を持つところだ。チャンスを潰したとしても、常に同じ勢い、同じテンションでグラウンドに走り出す。
「初回ツーアウト満塁で、フルカウントからの際どい球で見逃し三振に終わったとします。『あぁ……』とため息をつきたくなるところですが、ため息をつく前に守備に向かう。常に厳しく言っているのは『攻撃と守備は別物』ということです」
仮に、ピッチャーの投球練習が早めに終われば、相手のバッターは気持ちに余裕がない状態で打席に入ることにもなる。攻守交替から準備を早くして、主導権を握る。スコアブックには記されない小さなことの積み重ねが、接戦での勝利につながった。
徹底したフィジカル強化
前年秋は4回戦で桐光学園にタイブレークの末、3対4で惜敗。1日のオフを挟んでから、「飛ばない」とされる新基準バットに対応するための取り組みを始めた。
週3~4日のウエイトトレーニングとサーキットトレーニングでフィジカルを強化。練習の合間には、補食でおにぎりを入れて、体重を毎日計測した。
技術面では、トップから無駄な動作を入れずにミートポイントまで振り抜くバッティングを追求。スタンドティーやサンドバックを打ち込み、力が入りやすいミートポイントを体に染み込ませた。
「桐光学園に負けてからの半年、守備練習はほとんどやらずに、フィジカルトレーニングと打撃練習に取り組んできました。春はその成果が出せたと思います」(豊田監督)
準決勝の向上戦では、金城楽依夢の本塁打を含み10安打中8安打が長打。決勝でも東海大相模の投手陣から14安打を放った。
吉﨑創史、平野敏久、広橋大成のクリーンアップを中心に、甘い球を確実に仕留めるミート力を備える。下位にはチーム屈指のパワーを持つ金城が控え、厚みのある打線で、好投手を打ち崩してきた。