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〈川崎総合科学・下〉やるべきことを徹底し、初めてのシード権獲得



創部初の夏のシード権を獲得した川崎市立川崎総合科学は、公式戦を戦う過程で力をつけていった。春の4回戦では、昨夏日本一になった慶應義塾と対戦。1対7で敗れはしたものの、選手個々が高い集中力を発揮し互角に戦えていた。

(文・写真/久保弘毅)


最高の逆球のはずが……


 しかし慶應打線も黙ってはいない。左のエース・星野のアウトコースの球にも、左打者が踏み込んで強く打ち返してきた。星野も慶應打線の圧を感じていた。

「左打者の外への球は、慶應じゃなかったら三振を奪えたり、抑えられる球だったけど、外いっぱいに投げてもカットしてきました。慶應は外の球に強いと感じました」  

 左打者の外への球筋が星野の生命線だが、外いっぱいを狙い過ぎると投球が窮屈になる。そういう時に役立つのが適度な逆球。たまに左打者の懐に抜けてくるから、慶應の左打者もそう簡単に踏み込めない。慶應義塾の森林貴彦監督も「星野君は左打者のインコースがよかった」と、その威力を認めていた。


 6回裏1死二塁でも、星野の逆球がいい感じに決まっていた。左打ちの7番打者に対してインコースで詰まらせ、ショートゴロに打ち取ったかに見えた。しかしボテボテの当たりは内野安打になった。

ここで流れが変わったか。

続く8番の右打者・成戸洋介に甘く入った変化球をレフトスタンドに運ばれた。3ラン本塁打で1対5。続く7回にも2点を失い、星野はマウンドを降りた。

遠藤監督は好投を続けた星野をかばう。

「下位打線でも甘い球を逃さずホームランにするあたりは、さすが慶應ですね。星野は左打者の懐にいい感じに抜けるときに好投するんです。夏は意図して、左打者の内外に投げ分けてくれると思います」

 星野にとっては、野球の怖さを知るとともに、自分の強みを再認識できた試合だった。


小さな左腕・山口の粘り


 星野のあとを受けてマウンドに立ったのが、背番号10の小さな左腕・山口泰生だった。山口は8回裏を三者凡退で抑え、チームに活気をもたらした。右打者の外にふわりと決まるチェンジアップが効果的だった。

「星野と僕ではタイプが違う。相手は関係なく、自分のできることを意識して投げました。どこが相手でも、打たせて取る自分のスタイルは変わらない」

 一気に崩れかねない展開で、もう一度踏みとどまれたのは大きかった。遠藤監督は「星野と山口、タイプの違う左が2枚いるのがウチの強み。ふたりとも野球への取り組みが素晴らしい」と信頼を寄せる。

 夏も星野と山口の二枚看板が、総合科学を引っ張っていく。



左から山口、キャプテン諸戸、エース星野。今年の川崎総合科学を支える主力3人

初のシードにも気負いなく


 慶應義塾との試合以外にも、総合科学はいい試合をして勝ち上がってきた。遠藤監督は春の2回戦の麻溝台戦がベストゲームだという。力のある相手に3対1で勝てたことが自信につながった。


 夏へ向けては、野手陣のレベルアップが課題になる。打線の核になる山田知幸は、2度の大ケガを乗り越え、バットでチームを牽引する。春の神奈川大学付属戦で本塁打を放った津波古尚丸は、ノリノリの時にはものすごい力を発揮する。

遠藤監督は「能力的には4番じゃなきゃおかしい選手。飛ばすだけでなく、ランニングスローもすごいんですよ」と、津波古のポテンシャルを評価する。いい状態で大会に入ってくれたら、下位打線の起爆剤になるだろう。


 キャプテン諸戸は、初のシードにも気負いはない。

「今までの先輩たちが考え方を大事にしてきたおかげで、今回はシード権が取れました。先輩たちが積み重ねてきたものを発揮できるように、今までの集大成の気持ちで夏に挑みます」

 プレーが始まる前の準備から、一つひとつ丁寧にやってきた。夏になっても、やることは変わらない。一戦一戦、目の前の試合に集中していく。


4番・川端(2年)。川端と津波古と右の大砲がふたりいるのも今年の強み







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