〈横浜瀬谷・上〉将来につながる野球観を共有し、勝負の感性を磨く
瀬谷と瀬谷西が再編・統合し、2023年4月から横浜瀬谷となった。昨夏の大会後からチームを率いる佐々木圭監督は、前身の瀬谷の8期生。今年の1年生は51期生にあたるという。母校に戻ったベテラン監督は、上のレベルでも通用する野球観を選手に伝えようしている。
(文・写真/久保弘毅)
積極的に振っていく
「晩ご飯のおかずに、大好物の海老フライが出てきました。あなたは海老フライを真っ先に食べますか? それとも最後まで取っておきますか?」
心理テストみたいな話だが、横浜瀬谷の佐々木圭監督が昨夏の新チーム立ち上げ当初にミーティングで問うた内容である。
「おいしい物を最初から取っていく。いいところからどんどん狙っていくことで、成功に近づく。これがおかず理論。大事なことから先にやるという意味もあるんですよ」
だから横浜瀬谷の選手たちは初球から積極的にバットを振っていく。1番打者を任される大城有理も「1番打者の心得は、初回の第一打席の1球目からどんどん振っていくことです」と言っていた。
ただし、初球からやみくもにバットを振るという意味ではない。根拠を持って、狙い球を絞って、ファーストストライクを仕留める。もし打者の読みが外れているようなら、ベンチからの声で配球などを伝え合う。相手投手はどの球種が得意で、どのコースに投げたがっているのか。それを全員で共有したうえで、打「線」になって攻略していく。
佐々木監督は言う。「全員で狙い球を徹底して、自分のスイングをして、それで1イニング3球で終わっても構わない。『そういう時は誰が悪いんだ?』って選手に聞いたら、最近ようやく『監督の責任です』って答えるようになりました」
やることをやって、結果は天に任せるではないが、やれることを全員でやって、結果と責任は監督が請け負う。佐々木監督が就任してからの1年間で、ようやく考え方が浸透してきた。3年生に取材しても、狙い球の根拠をしっかりと言葉に起こせる。日々の野球日誌の成果もあるだろう。だが佐々木監督は「声かけの質をもう一段階高めたい」と言う。
「たとえば4点差を追いかける8回裏、無死一塁で2ボールになった時、ただ『点を取ろうぜ』ではなく、もう一歩踏み込んだ声がほしいんですよ。4点差を逆転するためには、走者をためたい。相手は好投手で、そう連打は続かない。そこで『なんでもいいから塁に出ようぜ』という声が出せるかどうか。クリーンヒット以外にも塁に出る方法はあります」
チャンスでの好球必打は大前提だが、カウントなどの状況に応じて選択肢を広げていくのも大事。四球を選ぶのもありだし、プッシュバントでチャンスを広げる方法もある。一塁走者がスタートを切るふりをして、ストレートを誘導するのもひとつの方法だ。
厚木を率いて2016年夏にベスト16まで勝ち進んだ佐々木監督は、勝負どころの駆け引きを噛み砕いて教えられる。「勝負の感性は後天的に鍛えられる」との信念のもと、大学野球以降にもつながる野球観を伝えている。昨夏の新チーム発足当初のミーティングで佐々木監督は「思っていた以上に浸透しなかった」とショックを受けていたが、今年の6月には「少しずつ入っていくようになった」と手応えを感じていた。
技術や体力は劇的に変わりにくい。考え方なら意識や取り組み次第で、あと1カ月で飛躍的に伸びる可能性がある。