〈日大藤沢・下〉緩い当たりを制して、激戦の神奈川を制する
神奈川の強豪私学の顔ぶれは変わらないが、近年は世代交代でチーム力がやや揺らいでいる学校も多い。だから、「この2~3年が勝負」と、山本秀明監督は力を込める。苦しい時代も戦力を維持してきた日大藤沢がこの夏、神奈川の序列を変えるか。
(文・写真/久保弘毅)
2007年春以来の甲子園へ
準々決勝の武相戦は前述したとおり、2死一塁からの6連打で逆転を許してしまった。連打で歯止めが利かず、あとひとつのアウトが遠かった。山本監督は「流れを止められる練習をしていなかった」と反省していた。
春の大会後は、練習試合で選手が自発的にタイムを取るようになった。キャプテンの牧原は言う。
「タイムを取れる回数が決まっているなかで、使うべきところを自分たちで考えて、タイムを取っています。グラウンドのなかには監督さんも入れない。選手1人ひとりが雰囲気や流れを感じて、点を取られそうだなと思ったら、キャッチャーの齋藤優汰だけでなく、内野からも積極的にタイムをかけています」
1人の野手がマウンドに行けるのは、1イニングに1回だけ。全員が集まれるのは9イニングで3回まで。山本監督は「最近は選手が勝手にタイムを取るんですよ」と笑っているが、選手任せで勝てるほど神奈川が甘くないのは重々承知している。誰を伝令に送り、どの場面でどういう言葉で意思統一を図るのか。あと1カ月で詰めていくことになるだろう。
メンバー選考は例年以上に競争が激しく、特に外野は3ポジションを10人で争っている。どの選手にもよさがあり、6月の時点で背番号一桁をもらった選手でも安泰とは言い切れない。山本監督は直前の登録変更まで頭を悩ませることになりそうだ。
投手陣も頭数はそろっているが、夏に向けてもうひと伸びがほしいところ。エースの西澤沖は見た目以上にボールが強く、春の4回戦、藤嶺藤沢戦の1失点完投勝利で自信をつけた。打力もあるので、6番あたりに西澤が入ると、打線に厚みが増す。2年生の大型右腕・三宿凌も復調傾向にある。力感なく投げ込めて、ホームベースに入ってくるボールの角度がいい。その他、サイドハンドの清水薫、指先感覚のいい左の松儀尚悟、キレで勝負する剱持潤平らを総動員して、夏を乗り切る。
1年夏からマスクを被る齋藤は、最後の夏への思いを口にする。
「夏の目標は、甲子園に必ず出ること。特に自分と牧原は1年の夏から経験しているので、きつい展開ではふたりの声で盛り上げて、チャンスにはふたりのバットで点を取りたい」
古谷真紘、川邉健司(現・ヤマハ)のバッテリーを擁した2007年春以来となる甲子園を、全員一丸となって目指す。